足がつる「こむら返り」を考える

昨日の東京大停電は、現代社会の抱える弱点を考える良い機会になったのではないでしょうか?テロや災害でなくても、同様のことが再び起こり得ますし、誰でもが遭遇する可能性がある以上、出張といえども最低限の準備をしておく必要があると思いました。明日からの学会に際し、荷物は増やしたくないのですが、熟考してみます。それにしても、あれだけの規模のトラブルにかかわらず、大きな事故や人的被害が出なかったのは幸いでした。ソーラー発電など家庭でできる小規模発電システムを備えた方は全く影響なかったのでしょうね。今回の事故は、いろいろと考えることがあります。

さて、システムという点では医学分野でも臓器間のネットワークが注目され、有名なものでは脳と腸の関係があります。すなわち脳の異常が腸の病気に関係したり、逆に腸の異常が脳の病気に関係しており、うつ病過敏性腸症候群などが代表的な病気として挙げられます。今、このような研究が全身の臓器で行われており、この臓器間ネットワークを無視していたら充分な相談相談ができないように私は感じています。

足がつる、いわゆるこむら返りに対し、TVコマーシャルなどで製薬メーカーが商品を紹介していますが、潜在需要の掘り起こしという点では問題ないものの、安易な対症療法にとどまると重大な病気の見逃しにつながるかもしれなくぃので注意する必要があります。薬剤師の立場でみると、医薬品の副作用には特に注目します。代表的な医薬品では、脂質異常症に使われるスタチンという種類の薬剤です。このスタチンには筋肉に対する副作用があり、その結果として筋肉痛や筋肉痙攣(こむら返りなど)を発生させる可能性があるのです。副作用の頻度は高くないものの大勢の患者さんが飲んでますから、注意が必要です。
また、CMに流れる商品の多くは漢方薬芍薬甘草湯だと思うのですが、この漢方薬により低カリウム血症が起こり、その結果として筋肉痙攣が現れることもあり得ますので、利尿薬を服用中の方や野菜が不足気味の方は慎重に使った方が良いでしょう。

こむら返りのように、単一の筋肉が痙攣し一過性で筋肉を伸ばして済むだけなら、大きな病気の心配はいらないとされます。筋肉の使いすぎ、偏平足、座りっぱなしの姿勢、固い床に長時間立つ、脱水などミネラルバランスの崩れ、…などが原因となります。マッサージや適度な運動である程度の予防ができるのではないでしょうか。私もそうですが、身体を動かすことが年々少なくなってきてますので、「こむら返り」を運動不足のサインとして身体からの声を受け止めなくてはなりませんね。

気を付けたいのは、単なる局所の一筋肉の異常ではなくて、全身の筋肉にも異常が及んでいる場合や痙攣以外の症状もある場合です。甲状腺機能低下症や肝硬変症の他に、「早わざ外来診断術(生坂政臣著、中山書店)」には、関節リウマチ、尿毒症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄病変、…などが挙げられています。
市販薬で症状が落ち着いているとはいえ漫然と継続するのではなく、症状の背景にある病態や他の疾患の可能性は常に考えておく必要があると思うのです。

芍薬甘草湯は比較的即効性があることが知られています。ですから、2〜3日飲んでも改善しないようなら、他の手段を考えてみなくてはいけないでしょう。上記したように全身疾患の可能性や日頃の生活状況を確認したのなら、東洋医学的な臓器間ネットワークにより、五臓の脾や肝や心のトラブル、筋を養う血の異常を改善する漢方薬の出番となります。
特に異常がないにもかかわらず、しつこい「こむら返り」に悩まされている方、漢方薬に詳しい東洋医学の専門家に相談してみてください。「こむら返り」の漢方薬は、芍薬甘草湯だけではありませんから。



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新潟県長岡市 相談薬局 ひろはし薬局   廣橋義和(薬剤師・心理カウンセラー・新潟薬科大学臨床教授)
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