過呼吸・過換気発作の対処法

当薬局では、薬の使用は極力少なくするよう努めています。薬局経営上は好ましくないのですが、例え漢方薬でも永久に飲み続けることは変だと考えますし、相談者も金銭的・身体的負担も少ない方が幸せでしょうし、なにより相談者には精神的にも身体的にも自律(自分で病状をコントロールすること)することがゴールだと思うからです。そこで必要になるのは、病状の根本的な原因(ルーツ)を探る能力、その原因を解消するスキル(アドバイスにより相談者が身に付けるもの)でしょう。そこには生理学・病理学だけでなく東洋医学と心身医学も加えた総合診療的視点や栄養学・時間生理学など広範囲な知識が必要となってきます。

先日、待ち合わせまでのわずかな時間に、世界一貧しい大統領ホセ・ムヒカさんの本をパラパラとめくってみました。豊さとは?幸せとは?哲学的ともいえる問いに対しホセ・ムヒカさんの考えは一貫しており、多くの物を持っていたり大量に消費したりすることとは違うと述べています。現在は、ドラッグストアやスーパー・コンビニに加えインターネットでも薬が手に入り価格の安さばかりが強調されていますが、もともと薬は安ければ買う・高ければ買わないではなく必要かどうかで判断すべきで安売りの延長にある大量消費には向かない製品ですよね。ホセ・ムヒカさんの本を読んで更にその思いを強くしました。

前置きが長くなりました。私たちの体と心は切っても切り離せない関係にあり、慢性疾患や難治性疾患が心身医学的治療で改善することは疑う余地がありません。過呼吸・過換気症状も同様で、この場合は1回経験した発作を再び繰り返すのではないかという不安・心配が、新たなきっかけになり再発しては不安・心配を増強すると言う悪循環を形成しやすいのです。恐らく最初の引き金も何かのシーンを思い出したことで精神面で変化が起こり身体の反応(過呼吸や動悸など)が出たのでしょう。

このような過呼吸・過換気発作の対応として有名なものがペーパーバッグ法です。過呼吸・過換気の時は体内では二酸化炭素が少なくなっています。だから一度吐き出した息を袋でプールして二酸化炭素の多い空気を吸うことが行われてきました。間違った方法ではないのですが現在では副作用も報告されており、血液中の二酸化炭素濃度や酸素濃度を測定しながら行う方が望ましいとされています。大多数の過呼吸・過換気発作では体内の酸素濃度は充分あるのでペーパーバッグ法で問題なかったものの一部の人で酸素濃度の少ない人がいて結果的にトラブルが発生したのです。

加えて、ペーパーバッグを用いなくても過呼吸・過換気発作自体は一時的な反応ですから自然と治まってくることもあり、敢えてリスクのある方法をとる必要が無くなったのです。ただ、一時的な反応と言っても、発作中の当人にとっては異常な呼吸状態というのは恐怖以外の何物でもありません。二酸化炭素濃度が減ることから身体の血管が収縮し、頭では意識がぼうーっとしたり頭痛がしますし、手足ではしびれや冷感を感じますから、何か重大な病気なのかもと大きな不安に襲われるのは当然の心理です。

でも発作中は「呼吸ができない」のではなく「呼吸ができないと言う感覚を感じている」のです。ですから酸素濃度は充分保たれているのです。呼吸ができないのなら酸素濃度は少なくなっていなければおかしいですからね。
つまり「呼吸ができない感覚がある」過呼吸・過換気発作状態とは、身体の異常は何もなく精神面での変化が自律神経を通して身体の反応として現れたものなのです。身体に異常がないので、時間が立てば(30〜60分くらい)自然と身体は普段の状態に戻ってくるのです。言わば、精神面の変化を自律神経が間違ってキャッチし身体が慌てて反応した結果が、過呼吸・過換気発作状態なのです。だから間違って反応したこと(ミスをしたこと)に気づいた時点で自然に回復してくるのですね。発作が起きた時のことだけでなく、発作から回復していった時のことも思い出してみると良いでしょう。

そこで、一般的な治療法として抗不安薬(安定剤)が処方され、不安と発作の悪循環を断つ方法がとられています。漢方では、《腎気》の動揺が原因と見立て腎気の動揺を抑える漢方薬を使用します。私の経験では、薬から早く卒業できるのは漢方薬を使用した人のように感じています。でも、薬を使う前に正しい知識を持つことが大切で、発作中でも「今現在、自分の身体ではどんな反応が起こっているのか?」と客観的に俯瞰できれば完全回復も近いのです。

ただ、「本当に薬が無くても大丈夫?」との心配を抱くことも自然なことです。「だから薬が止められない」と考えている方へ、先ほどの客観的に俯瞰する自己モニターだけで止められる人も大勢いますし、私のところでは自律訓練法を教えることも多くあります。自律訓練法は、非常に簡単な方法でありながら多くの優れたデータが示すように効果的な方法でもあります。しかも、場所・時間・状況などの制約をほとんど受けることなく行えます。私自身も学会での発表前にしばしば行っています。

簡単な方法ですが、ちょっとした要領などもあり専門家について一度基本を教わると良いでしょう。この時代ですからインターネットでも調べられるものの注意事項やコツなどの大切なポイントは残念ながら身につかないだろうと思います。その証拠として、間違った方法を身につけていたり、効果を感じられないケースなどが多数報告されているのです。

そして自律訓練法を身につければ薬が無くても、いつでも、どこでも、どんな状況でも自律訓練法を行うことができますから、常に特効薬を持ち歩いているようなものです。この安心感は非常に大きいものではないかと、私は考えます。
私が自律訓練法を教えだしてから、薬からの卒業がスムーズになった印象があります。自律訓練法は自分が主体的に練習しなければ身につかないものの、自分で病気・症状をコントロールできるという素晴らしさがあります。病気や症状に日常生活が振り回されるのではなく、「薬を持ってない」「薬を飲み忘れた」などの不安を持ち歩くことなく、普通の日常生活(自律した生活)を送ることができるのです。



漢方薬心療内科相談・心理カウンセリング・皮膚科の病気・生活習慣病不妊
新潟県長岡市 相談薬局 ひろはし薬局   廣橋義和(薬剤師・心理カウンセラー・新潟薬科大学臨床教授)
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