なるほど、夜尿症・おねしょ

先日、久しぶりに会った薬局オーナーの薬剤師との会話が記憶に残っています。どうしてこんな話になったのかわからないのですが、「うち(彼の薬局)は、予防に力を入れているんですよ。だって廣橋さんみたいに治療を求める人を相手にしたって医者と競争するだけじゃないですか!医者と競争したって勝てっこないんだし・・・」
まぁ、確かに、ごもっともなんですけど・・・。でも、細分化された医療の枠に、はまらない人が大勢いるから総合診療が出てきたわけで、その不満を一部の漢方家は引き受けてきたんですよね。今だって、満足できない人が居て、やはり彼らは、大抵の場合漢方薬を求めて相談に来ます。そんな彼らを、「とりあえずコレ飲んでみましょう」なんて軽いノリで対応はできませんし、何件もの医療機関を回ってきている人に、「それでも医者に行ってください」なんて、たらい回しもできません。
もちろん、全てを引き受けるわけではありません。重度の疾患が背景に隠れていそうな時などは、知り合いの医師に紹介状を書いて受診させています。我々医療人は、まずは目の前の苦痛に対応するべきで(あくまでも合法的にです。その手段が無い場合は仕方ありません)、苦痛が去ったのちに将来のことを考えて予防策や再発防止策を提案するべきだと考えるのです。(でも確かに、彼の薬局の方が利益は出ています)

先週、「小児に認められる排尿症状の診方・考え方」と題した自治医大小児泌尿器科教授、中井秀郎先生の講演を聞いてきました。主に、夜尿症に関しての内容でした。お恥ずかしい話、膀胱の大きさ・水分摂取の問題、くらいにしか考えていなかったのですが、昼間の尿失禁や便秘なども大きく関係するとのことで、如何に今まで大雑把な捉え方をしていたかと反省しました。

『夜尿症』だから、どうしても夜間の尿失禁に目が向きますが、日中の排尿に関する問題の有無により治療法が変わります。昼間にも排尿トラブルがあれば、大人の過活動膀胱と同様の治療を行うことになります。また、便秘がある場合は、大便により膀胱が圧迫されて排尿トラブルにつながるケースもあり、便秘の治療で改善する夜尿症も一定割合あるとのことでした。これらのチェックには、日常の排尿・排便日誌が有効ですから大いに活用したいものです。私が昨年作った汎用型の記録表も排尿・排便日誌として使用できるので活用してゆきたいと思います。

治療の前に基本的なこととして、カフェインが入った飲料は夕食後は控えることなどがあります。一方、よく行われている膀胱訓練(昼間に尿意を催してもギリギリまで我慢すること)は、残念ながら夜尿症にはほとんど効果が無いこともデータで分かりました。膀胱の大きさを大きくすることが目的のようですけれど、その効果は認められないようですね。ですから、スパルタのように「根性だ!気合いだ!」「ファイト一発!」と言ってみても無駄なんです。

治療法に関しては、薬を使わない方法として”尿アラーム療法”があります。これは電極をパンツの中に入れて尿をもらしたらアラームが鳴るのでトイレで排尿するというものです。数か月続けると50〜60%の効果があり、薬も使わずに済みますから多く行われているようです。不思議なことにこの方法で改善するのは夜間の膀胱容量で、「溜まったから目が覚める」という治り方ではなく「溜められる量が増える」ことで夜尿症が治ってゆくということです。アラーム療法で、脳と膀胱のコンビネーションが改善すると考えたらいいでしょう。ヒトの身体とは不思議なものです。

あとはタイプにもよりますが、ホルモン剤を使うこともありますし、抗コリン剤という過活動膀胱の薬剤を使うこともあります。
私ら漢方家としては、もちろん漢方薬を使います。漢方薬は機能性の病気との相性が良いので、脳と膀胱のコンビネーションに問題があるようなケースは最も得意と考えます。恐らく尿アラーム療法と同じ流れで夜尿症を改善しているのでしょう。夜尿症に関する漢方薬の効果は多数の報告があります。また成長と共に夜尿症の割合は減少するので、成長を促すような漢方薬(腎に作用する薬)や中枢機能を高める薬(心や肝に作用する薬)を使用することもあります。(具体的な名称は、薬事法の関係で挙げられません)
ただ、便秘や昼間の排尿を確認することは忘れられませんから、日誌をつけて確認することが重要ですね。

さて、大人になっての夜尿症もあります。まずは脳や腎臓や泌尿器に病気が無いかを調べて、器質的な問題が無ければ漢方薬自律訓練法などの出番となります。どちらも身体の機能的なアンバランスを調える効果があるので、体内ネットワークの何らかの躓きが原因と考えられるでしょう。
自律訓練法は”自己催眠”と言われることもあり、子供の夜尿症に催眠療法が効果的なことを思うと、体内ネットワークの再構築と共に暗示の効果もあるのかもしれません。

たかが、夜尿症ではありません。悩む本人にとっては自己肯定感にも影響するほどの大きな問題と認識することが必要だと思います。されど、夜尿症!なるほど、夜尿症!でした。


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