今、京都にいます。昨日のアトピー性皮膚炎治療研究会、今日の日本皮膚科心身医学会に出席した帰りです。皮膚科医が中心の学会・研究会ですが、皮膚病を皮膚だけの問題とした狭い視点で考えるのでなく、心理的な背景や社会的なかかわりも含めて広い視点で考える良心的な皮膚科医の集まりだと私は受け止めています。かと言って、奇をてらった特殊な治療法を研究するわけではなく、極めてオーソドックスなことを当たり前にしているのです。ただ、ガイドライン通りには上手く行かないケースに対し、いかに対処するかを、アトピー性皮膚炎治療研究会では皮膚科学的に追求し、皮膚科心身医学会では主に心身医学のモデルを用いて解決しようとする違いはあります。
以前も何回かアトピー性皮膚炎について書いてきました。漢方相談を中心とする当薬局には、「どうしてもステロイドを使いたくない」という人から「ステロイド外用薬を使ったけど効果に満足できなかった」と言う人まで、いろいろです。どうしても嫌な人にステロイド治療を勧めることはしませんが、薬剤師として(というよりも医療人として)正しい知識だけは伝えておきたいと考えます。
最近のアレルギー学の成果も含めてアトピー性皮膚炎を考えれば、できるだけ速やかに皮膚炎症状を解消することが重要です。特に乳児〜小児期では、皮膚炎が長引けば食物アレルギーの危険性が高くなり、その後の人生の快適さに大きな影響が及ぶとされます。ですから、ステロイドを使うにしても使わないで別の方法を選択するにしても、皮膚炎の速やかな解消ができなければ治療が成功しているとは言えません。
アトピー性皮膚炎の治療ガイドラインでは、治療の基本はステロイド外用薬です。一部の医療機関を除き、これは徹底されていると考えられます。しかし、アトピー性皮膚炎治療研究会に参加してみると、ステロイド軟膏の強さ・使用量・使い方などが正しく伝わっていない現状を感じます。当薬局に来る「ステロイド外用薬を使ったけど効果に満足できなかった」というケースは大半がこれです。私ら医療人は、この現実をもっと真摯に受け止める必要があると思うのです。医師は適切な強さのステロイド軟膏と充分な量を処方し、正しい効果的な使い方を薬剤師は説明する必要があるのです。
当薬局に漢方相談に来た人でも、私はステロイド軟膏の使い方を説明して帰すことが少なくありません。それくらい正しい効果的な使い方を説明されている方は少ないのです。
では、正しい効果的な使い方とは?
アトピー性皮膚炎治療研究会の事務局を務める片岡葉子先生のところには、治りにくい難しい患者さんが多く紹介されてきます。そんな難しいケースでも7割は、ステロイド軟膏の外用で改善しています。ですから、全体的に考えれば9割以上のアトピー性皮膚炎は適切な強さのステロイド軟膏だけで効き目が出ると思われます。そして、FTU(軟膏を中ー部から出した量が人差し指の1関節分の長さ)に従って充分な量を使えば(手のひら2枚分の面積に)、効果はほぼ確実です。この使い方であれば、1ヶ月以内に大部分の皮膚炎を鎮められるはずなのです。しかも、皮膚炎が鎮まればステロイドの使用を減らすこそができますから、結果的に安全な使い方になるのです。
ステロイド軟膏は、おっかなびっくり、いい加減な使い方で中途半端な効果の時に、ダラダラと中止できない状況になるようです。恐らくほとんどの副作用は、このような使い方で発生していると考えられるのです。
もう一つ、正しい使い方(止め方)としてプロアクティブ療法があります。このプロアクティブ療法の考え方は喘息と同じで、皮膚炎が外見上消えていても、目に見えない炎症が残っているとの考えが基本にあります。ちょうど火事が治まっても未だくすぶっている状態ですから条件次第では再び発火するのです。だから時々(数日に1回)完全消火の目的でステロイド軟膏を使うこととされます。このプロアクティブ療法に関しては、完全なコンセンサスが得られているわけではないようですが、ほぼ固まっているとの印象を私は受けました。どちらにしてもFTUで皮膚炎を鎮め、プロアクティブ療法で完全鎮火すれば、ステロイド軟膏は基本的に必要なくなります。そうです、ステロイド軟膏を止めることがアトピー性皮膚炎でもできるのです。
アトピー性皮膚炎は、治らない皮膚病ではないと私は考えます。ゴールドスタンダードは、ステロイド軟膏を中心とした外用療法ですし、一部の治りにくいケースも免疫抑制剤(問題はあるものの)などでコントロールできます。ただ、ストレスや乱れた生活などで体内環境の変化もありますから、心身医療や東洋医学的視点も重要でしょう。ステロイド軟膏を中心としつつも、ストレスとの付き合い方や乱れた生活を正すことも新しく身につけることも忘れてはなりません。病気からのメッセージを受け止めて、自身の日常を振り返れば、アトピー性皮膚炎も再発しなくなるように思えます。
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新潟県長岡市 相談薬局 ひろはし薬局 廣橋義和(薬剤師・心理カウンセラー・新潟薬科大学臨床教授)
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