膝の痛みに対する戦略

 今年も残すところ明日1日のみとなりました。いろいろな相談において今年は特に《薬を減らす》ことを意識してきました。一般的には「長く続けて飲む」イメージの漢方薬ですけれど、症状が落ち着いたら飲む回数を減らし、漢方薬を飲まなくても支障がない状態を目標として、相談を終了させてきました。相談を終了できた人を私は卒業生と呼んでいます。相談が終了しても縁が切れるわけではなく、時々はぶらりと母校に顔を出してほしいとの思いを込めています。いつかは、その卒業生を集めて同窓会のような集いを開催したいなぁとの夢を持っています。いつになるかはわかりませんが…。

 どんな痛みも程度の差はあれ、長引けば時間の経過とともに治りにくい複雑な病態になってきます。複雑ということは、痛みを構成する要素が1〜2種類ではなく3種類以上あり、その構成割合も人によってバラバラなので画一な治療法では満足できない状態になるわけです。したがって満足できない人々は、医院・病院を転々とハシゴしたり、針・灸・マッサージ・整骨院・治療院・整体・カイロプラクティックサプリメント…などと試します。途中で漢方薬に気づき例えば私のところを尋ねて来る方もいます。

 一般的に薬局では、鎮痛薬(痛み止め)を使用したり、コンドロイチンやグルコサミンやコラーゲンなどのサプリメントを勧めています。3年位前までの私も同様なことをしていました。ただ他の薬局と違うことは東洋医学の知識があるため、漢方薬を専門的な視かたで提案できることくらいでしょうか。良くなる方もいたし良くならない方もいたので、もっと満足度を高められないかとの思いをずーっと抱いていました。そこで気がついたことがあります。私ら薬剤師は(たぶん)薬やサプリメントで大部分を解決しようとしているのではないかと。

 薬やサプリメントの効果は限定的と考えると、他に何を組み合わせたら更に効果を上げられるかとの視点を持つようになります。心理療法はそれまでも行ってきてますが、疼痛相談では用いていません(今は充分効果的で必要な方法だと考えています)。そこで、理学療法としてのストレッチや運動療法などに関心を向け、実際に私自身が膝の痛みを感じた時に実践してみたわけです。その結果、予想通り痛みの改善を経験したので、改めて理学療法の重要性を認識したわけです。現在は多くの方が訴える肩こりに対して簡単な方法を体験してもらい効果を実感してもらっています。

もちろん私は理学療法の専門的な知識を持っていませんから、的確なアドバイスができているかと言われれば、たぶん一般的なことしか伝えられてないのだろうと思います。ですが、とかく薬の効果を絶対的に信じている方たちの価値観に変化を促したいのです。そして薬を減らすために何をすれば良いのかを一緒に考えてゆきたいと思っています。

 慢性的な膝の痛みに悩んでいる方でも、薬局では普通の鎮痛薬やサプリメントくらいしか提供できません。専門的な知識を持っても漢方薬だけですべての人を満足させることもできないでしょう。仮に良くなっても使用を止めれば元通りでは、治ったことにはなりません。もちろん変形性膝関節症のように膝の構造そのものが変化していたら完全に治ることなどあり得ませんから相談のゴールは薬やサプリメントの使用をゼロにすることではないかもしれませんが、ゼロに近づけることは重要な目標です。だから、どんな要素で痛みが構成され、それぞれの割合を考え、その人に合った適切な治療戦略をひねり出す必要があるのです。

 膝の痛みの場合、膝の炎症などに対する消炎鎮痛薬は特に初期においては効果的とされますが、慢性期では限定的との見方が近年は支持されています。慢性期では炎症だけでなく、《痛み信号》を脳に伝える入力系が過剰に反応する中枢感作が生じていたり、痛みの強さを和らげる下行抑制系の働きが低下したり、痛みをネガティブに捉え過ぎる《破局化》があったり、その結果《抑うつ状態》になったりしています。これらに対する戦略も行わないと効果が限定的な消炎鎮痛薬をダラダラと続けることになるわけです。

 また、コンドロイチンやグルコサミンやコラーゲンなどの成分も、理屈では減った軟骨を補うというものの痛みの軽減効果は認められても軟骨の回復は認められてないようです。もちろん全ての論文に目を通したわけではないものの、軟骨の回復は限定的だと考えたほうが良いようですね。近年は軟骨の減少と痛みの強さが関連しないとも言われ、私は膝関節周囲の筋肉やその筋膜および関節靱帯、関節包などの柔軟性や伸展性に注目しています。それが理学療法につながり、漢方薬などとともにアドバイスを行っています。今、資料作成の必要性を感じ準備も進めているところです。

 故山本五十六は「言ってみて、やって聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」との有名な言葉を残しています。薬局でも如何に実践させるかを考えたアドバイスの体制作りが重要だと考えます。
 加齢による膝関節の変形があっても、変形の進行が穏やかで痛みも気にならない程度であれば、日常生活に対する影響はほとんどないと言えるでしょう。私が目指す《膝の痛み》のゴールは、薬やサプリメントを極力減らしてそこに到達することです。

 来年もよろしくお願いいたします。

漢方薬心療内科相談・心理カウンセリング・皮膚科の病気・生活習慣病不妊
新潟県長岡市 相談薬局 ひろはし薬局   廣橋義和(薬剤師・心理カウンセラー・新潟薬科大学臨床教授)
http://hirohashi-pharma.sakura.ne.jp/ (アドレスを変更しました)

過去のブログの主なものはホームページにリンクを貼ってありますから、見たい記事がありましたら《ひろはし薬局のホームページ→過去のブロ
グ》から探してみてください。(現在の更新はしてませんが・・・)
  あるいは⇒http://www3.ocn.ne.jp/~hirohasi/sub6.htm

メールは《Re:タイトル》でお願いします。メールマガジンの申込も随時受付中
     ⇒8hirohashi@gmail.com

薬事法の関係で、具体的な薬品名は表示を控えています。お知りになりたい場合は、直接ご連絡ください。

講演の依頼に関しては、ホームページに掲載してある講演内容を参考にして、お申込下さい

訪問による出張相談にも応じています。
引きこもり・うつ病などのメンタル相談、外見の気になる皮膚病相談、病中・病後など体力低下による外出困難な場合、など